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ヴィンテージとはどういう状態?

木製楽器は時間の経過に伴って、だんだんと音が良くなっていく特異な性質を持っており、知れば知るほど素晴らしい構造をしています。音が良くなるにはいくつか理由がありますので、木材の性質と絡めて紹介していきます。


●強度が増加していく「木材」●

一般的に作られた創造物というのは、作り出された後はゆっくりと劣化していき、新品の状態を超えることは無いとされています。これが材質劣化による性能の低下です。

金属等は酸化(サビが出る)することで劣化し、その性能は少しずつ低下していきますが、面白いことに木材は切り出された時から少しずつ科学変化によって強度が増していくという特性を持ち合わせています。
これは他の素材には見られない現象です。


種類にもよりますが、切り出された後数百年は強度を維持でき、200〜300年をかけて強度を増しながら、その後1000年位をかけて少しずつ劣化していくのです。

木の細胞は中が空洞のパイプの様になっており、この構造はミツバチの巣に似ていることから、ハニカム(蜂の巣)構造とも呼ばれています。
この構造であるからこそ、軽くて強いという性質をあわせ持つことができるのです。
 ハニカム構造

 


●乾燥と細胞の結晶化●

よくヴィンテージ化した木製楽器の音色を表現する時に「枯れた味わい」という言葉が使われます。それはヴィンテージ化した楽器は乾燥する事で軽く硬くなり、実際弾いた時にレスポンスの良さや響きの良さ、または音量があるといった現象として現れることからそう呼ばれるのです。

セルロースの分子構造

木の細胞は60〜70%がセルロース、20〜30%がリグニンとヘミセルロースという物質で出来ています。残りの10%の成分は樹種によっても異なりますが、脂肪、窒素化合物、無機質等で出来ています。
セルロースとは非常に強い分子構造を持った糖分であり、それらが束になり複雑に絡み合って強固な細胞壁を形成しており、またリグニンはセルロースで出来た細胞壁の間に存在し、細胞壁の繋ぎや補強といった役割を果たしていることから、この関係はよくビルの鉄筋とコンクリートに例えられます。

一方、木材は吸湿性の物体で伐採直後は40〜300%の水分を含んで
(これを含水率という)おり、まさにスポンジともいえるほどの保水能力を持っているのです。
木材はそのうち30%程度の水分が細胞と結合しており、これを(
結合水)と呼んでいる。
伐採された木材はその後徐々に水分が抜けていくのですが、まず先に結合水ではない水分(
自由水)が蒸発し、含水率が30%になる(繊維飽和点)までに5年程度の期間がかかると言われます。そして自由水が抜けた後にようやく結合水が蒸発し始めるのです。

その状態で自然乾燥させることによって、含水率はその土地の気象に見合った値へと変化(日本の場合15%程度)します。その結果、結合水が減少するとセルロース同士の間に入り込んでいた水分が減り、セルロースはより強固に結合するのです。(下図参照)


自然乾燥プロセス



全乾の状態では細胞同士の間に結合水が無くなるため、収縮変動はほぼなくなり細胞同士が強固に結びつきます。この状態が木材乾燥では最も強い強度を誇る状態である。




また、セルロースは結晶化している部分と、非結晶化な部分として存在しており、結合水の低下によって結晶化が進むことで吸湿しにくい安定的な状態の割合が増してくる。
その結果、強度が増加され、結晶化した部分は水分と反応しにくくなるという性質を持つために細胞内にあった結合水は自由水へと変換され蒸発しやすくなるのです。
この結合水が安定していない間は細胞の収縮が起こる事で割れの原因となるが、年数が経ったものほどこの吸湿変動が少なくなり、つまりは吸湿変動が少なくなる。

結合水が1%増減すると木の強度の変化は圧縮強さが4〜6%、引張り強さが3%、曲げ強さが4〜6%、せん断強さが4%変化し、含水率30%以上の木の強度を基準とした場合、20%ではその1.5倍、10%では2.5倍にも強くなると言われています。

つまり結合水の低下によって、クッションとなっている水分が蒸発し細胞同士が直接結びつくことで結合度合いが増加し、内部抵抗が減る為に変化前に比べて数倍はエネルギーのロスが少なくなる事もあるのです。

例え同じ造りであってもヴィンテージ楽器の方が音が良いと言われる大部分は、この材質の違いが大きく関係しています。全ての物質には抵抗というものが存在しますので、生音で使用する場合は電子楽器の様に二次的なエネルギー源(電気)を持ちませんから、いかにして抵抗を減少させ限られたエネルギーを効率良く使えるかが楽器本体の基本レベルを決定すると言えるでしょう。


振動付加●

ヴィンテージと呼ばれる楽器は長い間に様々な人に弾かれ、様々な音楽を奏でて今日に至ります。事実、20〜30分ほど楽器を弾き込む事で楽器の「鳴り」が変化する現象は、皆さんも結構体験されているのではないでしょうか?
弾き込むことで楽器の音が良い方向に変化する理由については色々と言われており、振動という付加によって細胞が震えるうちに隙間が埋まり結び付きを強める等と言われているようです。

木材の場合、結合している水分の度合いで細胞が収縮しますから、その間に振動を与えることで細胞が更に振動し易い配列に変化すると思われます。

実際によく弾かれている楽器は音が良いのもまた事実ですし、楽器をウォーミングアップさせてあげることで発音が良くなることも事実ですので、振動を与えるということは楽器にとって好ましい変化をもたらすと言えるでしょう。



        


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